がんは昭和56年以降、死因順位第一位であり、割合は一貫して上昇を続けています。
2022年、厚生労働省より公開された人口動態統計では、がんで死亡する方の割合は24.6%であり、全体の約4分の1を占めます。
がんの治療には早期発見が重要です。がん検診の受診率は年々上昇しているものの50%前後であり、約半数の方は未受診です。
がんの検査には「時間がかかる」「痛みを伴う」などのイメージもあり、がん検診に行かない方もいるでしょう。
最近では、血液検査のみでがんを早期発見できる血中マイクロRNA検査の研究がおこなわれています。
本記事では血中マイクロRNA検査の概要や費用、メリット・デメリットなどについて紹介します。
がん検診を受けたいけれど、時間がない方はぜひ参考ください。
血液検査で13種類のがんを検出できる血中マイクロRNA検査とは?
ここでは血液検査のみで13種類のがんを検出できる血中マイクロRNA検査の概要や開始期間、費用について次の内容を紹介します。
血中マイクロRNA検査でがんを早期発見できる仕組み
血中マイクロRNA検査は血液検査でがんが検出でき、がんの早期発見が可能です。
さらに血中マイクロRNA検査は一度の採血で複数のがんを見つけられるメリットから早期実現が期待されます。
がん細胞はがんのタイプにより、異なった種類や量のマイクロRNAを放出します。
血中マイクロRNA検査では、がん細胞から放出され血中に取り込まれたマイクロRNAを測定し、小さい腫瘍のうちからがんを早期発見できる仕組みです。
わたしたちの身体は呼吸をしたり、食事から栄養を摂取したり、生きるために身体のなかにある数多くの細胞が働き機能します。
細胞の機能にはタンパク質が欠かせず、タンパク質は細胞内の情報を伝達したり、細胞の構造を維持したり、細胞に重要な役割を果たします。
RNAの役割は、DNAから伝達されるタンパク質の情報を保持や、生産するタンパク質の調節などです。
RNAには複数の種類があり、なかでも小さく低分子RNAであるマイクロRNAは遺伝子の働きを調節し、細胞の働きを変えてしまう作用があります。
そのためがん細胞から放出されたマイクロRNAはがんの発症や進行に関与し、血中に放出されたマイクロRNAを検出すると身体のなかにあるがんの状態を把握できます。
血中マイクロRNA検査でわかるがんの種類
血中マイクロRNA検査では、次の13種類のがん検査が可能です。
- 乳がん
- 膀胱がん
- 胆道がん
- 大腸がん
- 食道扁平上皮がん
- 胃がん
- 脳腫瘍
- 肝細胞がん
- 肺がん
- 卵巣がん
- 膵がん
- 前立腺がん
- 骨軟部肉腫
2022年、国立がん研究センターをはじめ、慶応大学、東京医科大学など数多くの研究グループが参加する共同研究では、血中マイクロRNA検査が高精度のがん検出を実証しました。
診断精度は全ステージで0.88(95%信頼区間:0.87-0.90)、早期発見に重要なステージ0~Ⅱに限った診断精度でも0.90(95%信頼区間:0.88-0.91)であり、早期発見が期待できます。
血中マイクロRNA検査の実用化はいつから?
現在、血中マイクロRNA検査は研究段階であり、実用化はまだ先となるでしょう。
国立がん研究センターを拠点に実施された体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクトは2014年に開始されました。
2020年から2022年、愛媛県、鹿児島県、北海道、福井県で初の大規模臨床試験であるマイクロRNAがんマーカー性能検証試験が実施され、詳細は次のとおりです。
【マイクロRNAがんマーカー性能検証試験】
登録目標 | マンモグラフィーで要精検と判定された方2000人 精検不要と判定された方1000人 |
調査機関 | 2020年12月より順次開始 終了はいずれも2022年3月 |
対象 | 各検診機関で乳がん検診を受診される40歳から69歳の方 |
実施方法 | 採血(9ml) マンモグラフィーで要精検と判断された方:精密検査 精検不要と判断された方:乳腺エコー検査 |
評価 | マンモグラフィーの結果、乳腺エコーの結果、マイクロRNAがんマーカーの測定結果を比較し分析 |
マイクロRNAがんマーカー性能検証試験の結果は、まだ公開されていません。
ほかにも血中マイクロRNA検査は食道がんや卵巣がんなどでも研究が報告されています。
血中マイクロRNA検査が実用化できれば、現在行われている腫瘍マーカーよりも発見率が高い診断マーカーとして期待されます。
さらにがんの早期発見のみでなく、認知症や心疾患などへの応用も検討しているようです。
血中マイクロRNA検査の費用
血中マイクロRNA検査は実用化していないため、現段階では血中マイクロRNA検査の費用は公開されていません。
しかし2023年3月まで一部の医療機関でミアテストと呼ばれる血中マイクロRNA検査がおこなわれていたため、費用は次を参考ください。(※現在ミアテストは中止です)
医療機関 | 血中マイクロRNA検査の費用(税込) |
リバーシティークリニック | 乳がん:33,000円 すい臓がん:66,000円 |
渋谷セントラルクリニック | 乳がん:44,000円 |
Gクリニック | 男性12項目・女性13項目:330,000円 |
マイクロRNA検査は尿中でも測定が可能です。
尿中マイクロRNA検査は、自宅でできるがん検査として、2022年より「マイシグナル」と呼ばれる商品名で販売しています。
マイシグナルの実用化には全国約30件の大学病院や企業が関わり共同研究が進められ、現在、医療機関導入数は400件以上です。
マイシグナルで調べられるがんは次の7種類です。
- 大腸がん
- 肺がん
- 胃がん
- 乳がん
- すい臓がん
- 食道がん
- 卵巣がん
マイシグナルの費用は次を参考ください。
医療機関 | マイシグナルの費用(税込) |
下山記念クリニック | いずれか1種類:33,000円 女性がんセット(乳がん・卵巣がん):418,000円 3大がんセット(大腸がん・肺がん・胃がん):46,200円 消化器セット(大腸がん・胃がん・食道がん・すい臓がん):48,400円 全7種類:55,000円 |
北斗病院 | 男性がんリスク検査セット(食道がん・胃がん・大腸がん・すい臓がん): 71,500円 女性がんリスク検査セット(食道がん・胃がん・大腸がん・すい臓がん・乳がん) :77,000円 |
Dクリニック | 消化器がん(大腸がん・胃がん・食道がん・すい臓がん):85,800円 3大がん(大腸がん・肺がん・胃がん):81,400円 女性がん(乳がん・卵巣がん):74,800円 7種がん:99,000円 いずれか1種類:59,400円 |
ミアテストやマイシグナルは、一度に1種類から検査できるすべてのがん項目を調べられます。
調べるがんの数により費用が異なるため、注意が必要です。
血中マイクロRNA検査のメリット
ここでは血中マイクロRNA検査のメリットに関して、次の内容を紹介します。
少ないリスクで多くの種類のがんを検査できる
がん検査ではCT検査やX線検査、超音波検査などさまざまな検査が可能です。
ただしCT検査やX線検査には被爆のリスクがあり、1回あたりの被爆量は少量ですが放射線の危険を伴います。
それに対し、血中マイクロRNA検査は採血のみで検査が終了します。
さらに血中マイクロRNA検査では一度の採血で、13種類のがん検査が可能です。
少ないリスクで多くの種類のがんを検査できるため、利便性の点からも今後、がん検診への応用が期待されています。
がんの早期発見・早期治療につながる
血中マイクロRNA検査はステージ0~Ⅱの診断精度が高く、がんの早期発見・早期治療につながるでしょう。
がん細胞から放出されるマイクロRNAは、腫瘍のサイズが小さくても自律的に分泌されるため、同様に採血で検査できる腫瘍マーカーよりも早く、血中に変化が現れます。
さらにCT検査やX線検査の場合、腫瘍がある程度大きくならないと診断ができません。
そのため血中マイクロRNA検査は、従来の検査よりも早期発見が可能です。
検査時間が短い
血中マイクロRNA検査は採血のみのため、検査に時間がかかりません。
がん検診を受診しない理由に、「受ける時間がないから」と回答する方が最も多くいるでしょう。
がん検査にかかる時間は次のとおりです。
検査内容 | 時間 |
血中マイクロRNA検査 | 5分以内 |
CT検査 | 10~15分程度 |
MRI検査 | 15~45分程度 |
PET検査 | 90分程度 |
超音波検査 | 10~20分程度 |
検査時間は検査の種類により10~90分と大きく異なりますが、血中マイクロRNA検査の場合、採血のみのため検査にかかる時間が短く、忙しい方にもおすすめです。
がん検査における心理的・身体的負担が軽減される
がん検査のなかには、検査内容により心理的・身体的に負担がかかる場合があります。
乳がん検診で受けるマンモグラフィーは乳房を均等に平たくする必要があり、ガラス板で乳房を圧迫するため痛みを伴います。
またPET検査はブドウ糖を事前に注射する必要があり、注射後検査までの1時間前後、ベットの上で安静にしなければいけません。
血中マイクロRNA検査の場合、採血のみのため心理的・身体的負担が軽減されるでしょう。
血中マイクロRNA検査のデメリット
ここでは、血中マイクロRNA検査のデメリットについて次の内容を紹介します。
がんを100%発見できるわけではない
血中マイクロRNA検査は、がんを100%発見できるわけではありません。もちろんほかのがん検査でも同様です。
血中マイクロRNA検査は100%ではないものの診断精度は高いです。
国立がん研究センターが公開している研究成果では、全ステージで0.88(95%信頼区間:0.87-0.90)、早期発見に重要なステージ0~Ⅱに限った診断精度でも0.90(95%信頼区間:0.88-0.91)となります。
この結果からも早期発見が期待できることがうかがえるでしょう。
今後の研究では、新たに収集した血清検体でも上記のような結果が得られるかどうか、検証が進められます。
まだ実用化に至っていない
血中マイクロRNA検査はまだ実用化に至っていません。
2022年3月まで実施されたミアテストは、精度管理基準を満たす試薬の安定供給が困難なため中止になりました。
血中マイクロRNA検査には、次の課題が挙げられます。
- 卵巣がんの場合、良性疾患もがんと判定する
- マイクロRNAの血中での含有量が、どのようなメカニズムで調節されているの追求
- 大規模臨床試験(マイクロRNAがんマーカー性能検証試験)の解析
- 新たに収集した血清検体でも研究結果を再現できるか
ぜひ実用化して、将来的にがん検診で血中マイクロRNA検査を受診できる機会を期待しましょう。
血中マイクロRNA検査に関するよくある質問
最後に、血中マイクロRNA検査に関するよくある質問について紹介します。
腫瘍マーカーとの違いは何ですか?
腫瘍マーカーも、血中マイクロRNA検査と同じく採血や採尿でがんを調べる検査です。
腫瘍マーカーとの違いは次のとおりです。
血中マイクロRNA検査 | 腫瘍マーカー | |
検査対象 | がん細胞が放出したマイクロRNA | がん細胞が産生する物質 |
早期発見 | 小さな腫瘍からもマイクロRNAが放出されるため早期発見が可能 | がんがある程度進行しないと検査が不可 |
臨床的意義 | がんの早期発見 | がん進行程度の指標 |
調べられるがん | l 乳がん l 膀胱がん l 胆道がん l 大腸がん l 食道扁平上皮がん l 胃がん l 脳腫瘍 l 肝細胞がん l 肺がん l 卵巣がん l 膵がん l 前立腺がん l 骨軟部肉腫 | l 大腸がん l 胃がん l 乳がん l 甲状腺がん l 肺がん l 卵巣がん l すい臓がん l 胆道がん l 子宮がん l 肝臓がん l 食道がん l 子宮頸がん l 前立腺がん l 白血病 l 胆管がん l 尿路上皮がん l 悪性リンパ腫 |
血中マイクロRNA検査は血液中に含まれるがん細胞が放出したマイクロRNAを調べ、腫瘍マーカーはがんが発生すると分泌される抗体を検出して調べます。
腫瘍マーカーは、がんがある程度進行しないと調べられませんが、血中マイクロRNA検査では早期発見が可能です。
また血中マイクロRNA検査に対し、腫瘍マーカーは血中マイクロRNA検査より多くのがんを調べられます。
血中マイクロRNA検査は保険適用になりますか?
血中マイクロRNA検査は、実現化されていません。
現在販売している尿中マイクロRNA検査のマイシグナルは保険が適用されず、自費診療です。
医療保険は病気と診断されない限り、保険が適用されません。
血中マイクロRNA検査はどの病院で受けられますか?
2022年3月まで一部医療機関で血中マイクロRNA検査であるミアテストを実施していましたが、現在は中止しています。
そのため、血中マイクロRNA検査を受けられる病院はありません。
尿中マイクロRNA検査であれば、次のとおり一部医療機関で受診可能です。
マイシグナル実施施設 | |
東京(89件) | 【例】 にしろくクリニック 成城クリニック 日比谷国際クリニック 小平内科糖尿病クリニック 三軒茶屋あかりクリニック |
大阪(39件) | 【例】 愛成クリニック こどもクリニックきじま いわま外科・内科クリニック 泉ヶ丘皮フ科・内視鏡クリニック 加藤皮膚科 |
マイシグナルの取扱医療機関は、公式サイトで確認できます。
マイクロCTC検査で今すぐがんリスクをチェック
マイクロCTC検査は、気軽にがんリスクをチェックできる血液検査です。すでに実用化されており、全国140か所以上のクリニックが導入しています。
1回5分の採血のみで全身のがんリスクを調べられることから、仕事や家事などで忙しい方でも検査が受けやすいでしょう。
ここからは、マイクロCTC検査の概要を解説します。
1回5分の採血だけで検査可能
マイクロCTC検査は、1回5分の採血のみでがんリスクの検査が可能です。
検査前後の準備を含めても1回5分で終了するため、受診のために仕事を休んだり、スケジュールを大幅に調整したりする必要はありません。
がん検診を受ける時間がない方でも気軽に検査を受けられるでしょう。
安心且つスピーディーに検査できる
マイクロCTC検査は、少量の血液を採取するのみで、検査時の痛みや苦痛をはじめ、検査薬の注射・内服、医療被ばくの心配もありません。
血中マイクロRNA検査と同じく、身体的負担は少ない検査といえます。
また、従来のがん検診より早い段階でがんを発見できる点もマイクロCTC検査の強みです。
画像検査や内視鏡検査などの検査では、1cm以上の大きさに成長したがんが発見されます。
1cmのがんの細胞数は、すでに10億個を超えており、その後加速度的に増殖します。半年~1年でステージ2、3へ進行するケースも少なくありません。
マイクロCTC検査では、増殖の過程で血管に漏れ出したがん細胞をいち早く捉えるため、1cm未満のがんの発見が可能です。
間葉系のがん細胞のみを捕捉
マイクロCTC検査は、間葉系のがん細胞のみを捕捉し、個数を明示します。
間葉系のがん細胞は、悪性度の高いがん細胞です。周辺の臓器や組織に浸潤・転移する能力や、抗がん剤に抵抗する力を持っているため、進行性・難治性のがんといわれています。
一方、表面をおおう「表皮」や内臓の粘膜「上皮」に発症する上皮性のがん細胞は、浸潤・転移・再発のリスクがなく、悪性度は低いとされています。
また、上皮性のがん細胞は、進行する恐れがないことから、治療をおこなわないケースも少なくありません。しかし、一部の細胞は間葉系のがん細胞に進行する可能性があります。
マイクロCTC検査は、血中に漏れ出した悪性度の高い間葉系のがん細胞はもちろん、上皮性のがん細胞から間葉系のがん細胞へ進行した間葉系のがん細胞を特定し、捕捉します。
参考:血液1滴で13種類のがんを検出できる?最新のがん検診について徹底解説!
まとめ
本記事では、血液検査のみでがんを検出できる血中マイクロRNA検査について検査概要、検査にかかる費用、メリット・デメリットについて紹介しました。
血中マイクロRNA検査は採血のみで、大腸がんや胃がんなど13項目のがんを一度に検査が可能です。
さらに従来の腫瘍マーカーやCT検査、X検査などの画像診断より早期発見が期待でき、ステージ0~Ⅱでも高い診断精度が実証されています。
血中マイクロRNA検査が実現できれば、検査が簡便になり、検査時間もかからないため、がん検診の受診率も向上するのかもしれません。
<参考>
※1 gaikyouR4.pdf
※2 がんの統計 2023
※3 RNAとは?【がんRNA研究分野】 | 国立がん研究センター 研究所
※4 血中マイクロRNAにより13種のがんを高精度に区別できることを実証-世界最大のヒト血清マイクロRNAデータベースを公開-:[慶應義塾]
※5 血液中マイクロRNAがんマーカー 初の大規模臨床試験|国立がん研究センター
※6 ミアテスト [検査法・費用] | 自由診療 | リバーシティクリニック東京 東京都中央区佃・月島
※7 ミアテスト 「超早期乳がん検査」 | 渋谷セントラルクリニック アンチエイジング・個別化医療
※8 ミアテストプラチナ(がんリスク検査)|東京銀座のGクリニック
※9 尿検査でがんを早期発見 miSignalで胃がん・肺がんなど多くの検査が可能に | 下山記念クリニック(東広島市)※10 【世界初】尿検査によるがんリスクを早期発見する検査開始 | 北海道・十勝・帯広 北斗病院
※11 RNA検査・がんリスク遺伝子(DNA/RNA)検査 – 北青山Dクリニック
※12 血中マイクロRNAにより13種のがんを高精度に区別できることを実証|国立がん研究センター
※13 広報誌「厚生労働」2022年12月号 特集
※14 No.3「マイクロRNA」がんを超早期診断する(ミアテスト/ミルテル)|福岡メディカルクリニック・博多区中洲川端駅の内科
※15 PowerPoint プレゼンテーション
※16 腫瘍マーカーとは | 大阪市立十三市民病院
※17 検査できる医療機関 | がん検査キット マイシグナル®